7の段中毒

No.1 - 2009/03/24


 ぼくは7の段が好きだ。もう、7の段中毒である。
 九九はおしなべてインイチガイチからククハチジュウイチまであり、それらが1の段から9の段までの九つに分類されている。その中でひときわ異彩を放っているのが7の段だ。1の段や2の段、あるいは5の段とは対照的な、とてつもない覚えにくさ。49やら63やらいかにも素数っぽい数字が平然と出てくる変態さ。そんなところがぼくの被虐心をそそる。「7」という字の鋭い角で突っつかれることは歓迎すべきである。

 小学生は低学年のころ「九九テスト」というものがあって、1の段から9の段までのすべてを暗誦しなければならなかった。全9ステージ、そのすべてをクリアすると晴れて暗誦から解放されるという仕組みである。1の段や2の段は言うまでもなく、3の段や9の段も比較的スムーズにクリアできたぼくだが、7の段だけはどうしようもないほどに覚えられなかった。シチイチガシチ、シチニジュウシ、シチサンニジュウイチ……もうこの21が出てきた時点で泣きそうになる。28とか本当に勘弁してください、というような感じで、49なんか出てくると発狂しそうになる。ほかの段の数倍の時間をかけて暗誦し終わったとき、それはとてもとても気持ちよかった。いま思えば7の段に対する中毒症状はこのとき始まったのかもしれない。
 しかし、7の段にも慣れてきた。逆立ちしながらそらんずることだってできる……というのはうそである。なぜならばぼくは逆立ちができないからである。それはともかく、すらすらと7の段を言ってのけることは十分にできる。つまり中毒性が弱くなっている傾向にあるのだ。そこでぼくは新たな刺激を欲して、17の段とかを覚えようとするのだが、いまひとつ気が乗らない。なぜだろう、と考える。すると気が乗らないのは、17の段がまるでシンプルでないことに起因することがわかった。17の段が覚えにくいのは当然なのだ。7の段の、ひと桁というシンプルさには絶対に敵わないのだ。
 薄れゆく7の段の刺激を必死に吸い取る日々は、まだ当分のあいだ続きそうである。


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