写植記号BA-90の趣

No.8 - 2009/09/05


 写植記号BA-90とは下図のようなものである。

 見たことのある人も多いのではないだろうか。雑誌などで、よく文末に“(笑)”の代用としてついていることが多い。
 最近、この顔をさっぱり見ない。それも当然で、これは写真植字(写植)(※1)専用の記号である。現在よく使われているDTP(※2)では使えない記号なのだ。(※3
 しかしなくしてしまうには惜しい記号である。笑顔の記号自体はありふれている。実際、☺や☻といった笑顔の記号がunicodeには登録されている。しかしどうもBA-90にみられるような独特の存在感がない。
 しかしこの独特の存在感、どこから来るのだろうか。☺との違いは何なのであろうか。
 それは、妙に老けた顔にあると考える。顔文字にしては太い眉や鼻筋、そして極めつけは口横のしわ。よく見られる顔文字にこの3つを付け足すことによって、顔文字はたちまち老けだす。そしてそれが存在感を与える。
 携帯電話などで見られる絵文字の顔は、おおかた個性がない。個性を与えたところで、使い道が限定されるからだろう。広く一般に使われるものでなければ、多くの携帯電話ユーザーののぞみには応えられない。
 この記号が生まれたのは数十年前だという。いったいどういうきっかけで生まれたのか気になるところであるのだが、そのところについてはよくわかっていない。この記号を作った写研は保守的な運営をしており、いまだウェブサイトすら持っていない。あまりにも時代の波に乗っていないので、このまま廃れていってそのうち消えてしまうのではないか、という危惧さえ立っている。しかしそうなってしまうには惜しい。なくなってしまえば、ただでさえ絶滅の危機に瀕している記号BA-90がほんとうにまったく消えてしまうかもしれないからだ。
※1 写真植字機を用いて、写真フィルム・印画紙に文字・記号・罫線パターンなどを1字分ずつ露光し、現像して印刷用版下を作ること(『広辞苑 第五版』)。最近、どんどんと使われなくなってきている。
※2 パーソナル・コンピューターあるいはワークステーションと高品位プリンターとを使用して、原稿作成・編集・印刷のすべてを行い、従来の活字印刷物に近い水準のものを作成すること(『広辞苑 第五版』)。
※3 DTPで使えるフォント・イワタアンチック体には含まれているらしい(参考)が、一般的とは言えないだろう。


雑文集へ

わら半紙へ